ワイン造りは、土造り。風土を活かした食中酒を目指すワイナリー「高橋葡萄園」

takahashibudouen3

ワイナリーのベテランが、満を持して独立。

農業特区を利用して、市内のぶどう農業やワイン醸造の活性化に力を注いでいる花巻市。市をあげての振興政策の甲斐あって、「ワインのまち花巻」というイメージも、少しずつではあるが定着してきているようだ。
今回お話を伺ったのは、そんな花巻市にあるワイナリーで10年以上にわたって経験を積んだのち、自身のワイナリーを立ち上げた「高橋葡萄園」の高橋さんだ。
ふたつのワイナリーを経て独立した高橋さんの造るワインには、どのようなこだわりがこめられているのだろうか。これまでの経緯やワイン造りへの思いをご紹介したい。

free5-1

ワインのために秋田へ通った独立初期。

高橋さんがワイナリーを立ち上げるまでの道のりの第一歩は、花巻市が誇る老舗ワイナリー「エーデルワイン」への就職だ。1996年の入社当時、それまで花巻市では、キャンベル・ナイアガラといった、食用のぶどうによるワイン造りが進められていた。それが、振興策の一環としてワイン専用のぶどう栽培を増やしていくという方針が示されたことをきっかけに、高橋さんは水田をぶどう畑に一新。
エーデルワインの職員として働きながら、自身もぶどう園を運営し、収穫したぶどうはエーデルワインに原料として出荷していたのだそう。ぶどうの栽培においては今年で23年目のベテランとなる高橋さんである。
エーデルワインへの入社から10年後、紫波フルーツパークというワイナリーに5年間勤務。また、エーデルワイン在職中に、オーストリアのワイン学校に約1年半派遣され、醸造技術を学んだ。これらの経験をもって、2012年に独立した。
しかし実は、醸造所とワイナリーが建ったのは独立から3年後の2015年。ワイナリー建設の準備が整うまでは、秋田県にあるワイナリーで場所を借り、委託醸造という形でワイン造りを行っていたそう。
県をまたいで通い続けるのには相当な労力を要したはずだが、それでも高橋さんが2012年に仕込んだワインの量は、3品種で2,600kg。高橋さんのワイン造りへの熱意が伺える。

takahashibudouen5

高橋葡萄園 | 高橋 喜和 様

適期作業でしっかり育てる。

土の状態を良好に保つことで、丈夫な果樹を育てること。これが、高橋さんのワイン造りの基本だという。
「ぶどうの出来の良し悪しは天候に左右されやすくて、雨量が多いと病気にかかることも少なくありません。そういった自然環境から受ける影響を最小限にとどめて、病気などから守るためにも、養分をちゃんと吸収できる土をつくることを大切にしています。」と高橋さんは語る。
このよい土づくりのために、高橋葡萄園では、果樹園に下草(雑草)を生やす草生栽培という栽培方法を採用しているという。この栽培方法にはいろいろなメリットがあるが、まずは雑草の力を借りて果樹を育てるため、大雨の際に、草も水を吸うのでぶどうが急激に吸水しない。そのほか、刈った草は有機質となるので、土中の微生物の活動が活性化する、ということが挙げられる。
この草生栽培で育ったぶどうのなかから、さらに裂果などを取り除いた健全果だけをワインの原料としているのだそうだ。こうしてつくられた高橋葡萄園のワインは、食事のアクセントとなる酸味が特徴で、食中酒として評価されている。 原料となるぶどうの酸味には、ぶどうが熟すまでの光合成の量が関係してくる。光合成によってできた糖分は、果実に蓄えられる際に、いちど酸に形を変えて果実中に蓄積されていく。そして果実が熟すとき、蓄積された酸がふたたび糖に変わって、あの甘さが引き出されるのだ。
「生成された糖の量が多いほど、あとになって酸がしっかりと残ります。だから、まず土の状態をよくして、葉の状態をよくして、光合成がしっかりできるようにしてあげるんです」と高橋さん。
酸味の強いワインは和食との相性も良い。銀座で寿司屋を営んでいる高橋さんの知り合いがワイン会をするときは、高橋さんが兼業で育てているお米で寿司を握り、その寿司といっしょに、高橋さんのつくるワインを提供しているのだとか。

takahashibudou6

花巻の、文化の味を作ろう。

オーストリアでの留学中に、高橋さんはこんな言葉を耳にしたという。
「ワインはつくられるものではなく、生活の中で自然に生まれるもの、すなわち文化なのです」
この言葉との出会いから、高橋さん自身も、大迫町の気候風土から生まれる最上のワインを目指し、花巻の食文化のひとつになりたいと考えるようになったのだそうだ。
花巻市が力を入れるワインづくり。活性化のためにと醸造所やぶどう農家をただ増やしていくだけでなく、高橋さんのような、ぶどうやワインに対する自身のストーリーがあり、造り手としての思いを大切にできる人がいてこそ「ワインのまち花巻」が根付いていくのではないだろうか。
また、大迫町の醸造所では、そこに隣接して保管庫を兼ねた直売所も設けている。現地を訪れた際には、高橋さんがつくりあげた花巻の味をぜひ楽しんでみてほしい。