過去と未来、文化をつなぐ温泉旅館「藤三旅館」

fujisan02

600年の歴史を持つ温泉旅館。

花巻には、豊かな自然においしい料理、そして、旅の疲れを癒やす温泉宿がある。
今回ご紹介するのは、600年の歴史を誇る温泉旅館「藤三旅館」(ふじさんりょかん)。
風呂屋としての開業は600年前、旅館としての創業は昭和17年で、旅館は現在12代目まで受け継がれている。
創業から現在まで大規模な内装のリノベーションを行わず、建物の歴史をそのまま残した佇まいの藤三旅館。
都会ではまず感じられないその趣ある雰囲気に惹かれて、県外、特に都市部から訪れるお客さんが多いという。
自慢の温泉は、加熱や加水を一切行わない100%かけ流しの湯が特徴で、全国的にも珍しい「立ち湯(人が立って入れる深さまで浴槽を掘った浴場)」や、心身の療養を目的として温泉地に長期滞在する古くからの伝統「湯治部」が残っていることでも有名だ。
そんな藤三旅館の統括にあたっているのは、取締役専務の藤井大斗さん。
これまで歩んできた道のりや、それを受け継ぎ、後世へとつないでいく藤井さんの思いについて、お話を伺った。

fujisan03

守るために、変えていく。

湯治部という文化を知っている人は、いまの時代には多くない。そのため当然、創業時に比べると湯治部の利用者も減少気味なのが現状であるが、それでもこの湯治部をできる限り守っていきたいと話す藤井さん。
「やはり古くからの温泉文化ですし、湯治部があるということが、温泉の質への信頼にもつながる。
興味を持って来てくださる方のためにも、守り続けていきたいです」
ただ、湯治部だけで利益を出していくのは容易ではなく、その存続のため、藤三旅館は別邸の高級旅館『13月』をオープンさせた。さらに、時代やお客さんのニーズを汲み取って、宿泊者が自炊をするというシステムから、食事付きのサービスに変更。こうした改良を重ねて、いまの湯治部があるのだという。
また、リーズナブルな価格や食事付きという点に惹かれてか、それからの湯治部には若い層の方々が来てくれるようになったのだとか。
「若い世代に湯治の文化を知ってもらえるのはとても嬉しい。時が経って旅行をしたときに、ふと湯治部のことを思い出してもらえたらいいです」と藤井さんは嬉しそうに話してくれた。
ほかにも、泉質の良さと湯治というシステムが気に入り、東京のアパートを引き払って5年間湯治部に住んだお客さんがいた、というエピソードもあるとか。
こうした伝統を受け継いでいくために、藤井さんが大切にしている言葉があるという。
「常連の大学教授の方からいただいた、『変わらないために変わる』という言葉です。
大切なものを守り続けるために、ときには変わることも大切なのだと。
ずっと心に留めて、藤三旅館の歴史や伝統を守っていきたいです」と藤井さん。 
藤井さんが大切にしているこの言葉は、藤三旅館の姿勢として、今後の代にも永く語り継がれていくことだろう。

fujisan04

鉛温泉株式会社|藤井 大斗 様

旅館業も、楽しむが勝ち。

藤三旅館でのお客さんとのコミュニケーションについて、藤井さんの考えを聞いてみた。
「まずは自分が楽しむことです。どんなに格式高い接客をしても、結局は接客を楽しんでいる人には勝てないと思うんです」
これまで勉強してきた接客マニュアルや、旅館業の心得、哲学、そういった勉強がどうも腹落ちしなかった藤井さん。
ディズニーランドの従業員の接客をみて、まずは自分たちがこの旅館を好きになり、信頼し、温泉や料理をお客さんと楽しく共有していくことが大切だ、と考えるようになったという。
「自分が楽しければ、嘘をつく必要もないし、作らなくていい。より魅力的にみせるための言い回しを考えることもビジネスにおいては大切ですが、まずは好きになることありきなんじゃないかと」そう語る藤井さん。
この考え方はまさに、モノやサービスを売るすべての仕事に通ずるのではないだろうか。
また、“自分が良いと思うものを共有する”という意味では、藤三旅館が開催している「朝ごはんプロジェクト」もその一環といえるだろう。「ファームプラス」の記事でもご紹介した朝ごはんプロジェクト(季節ごとに旬の食材を使って朝ごはんを提供することで、花巻の魅力を伝えていく活動)に、藤三旅館は6年ほど前から参画している。
「花巻の農家から購入した食材の美味しさを、朝ごはんを通してお客さんと共有する。どこでも食べられる料理や、どこでも買えるお土産じゃなくて、花巻ならではのものを一緒に楽しんで、満足してもらえたらそれでいいんです。
そこから徐々に、旅館だけでなく花巻という街の認知を広げていけたらなと思います」そう語る藤井さんの、花巻への愛情と熱意が、とても頼もしく感じられた。

fujisawa05

若手のつくる、これらからの花巻。

花巻の農家やお店と連携をとることについて「旅館は地域のランドマークというか、情報の発信地でありたいと思っています」と藤井さんは説明する。
「花巻はいいところだけど、全国のなかで埋もれている。特に食の魅力はもっと伝えていきたいのに、ものづくりに携わっている人は、そういう発信が得意でない人が多いんです。だから、わたしたち藤三旅館が仲介役となって、農家と消費者をつなげ、花巻の魅力を発信していけたらいいなと」
花巻の街では、そうしたものづくりに携わる業界での世代交代を考えていかなければならない時期なのだとか。
先の時代に向かって、いま若手がすごく活気づいているという藤井さん。
本格的な世代交代はもう少し先かもしれないが、これから花巻は、より楽しく元気な街になっていきそうだ。
先代が遺してきた歴史と文化を守りつつ、眼差しは先の未来を見据える藤三旅館。
泊まりがけで訪れる際には、ぜひ藤三旅館で花巻の活気を感じてみてほしい。