農業のある暮らしを、福祉にも。社会福祉法人 悠和会。

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花巻で人気、果汁100%シードルのつくり手。


交通量の少ない、開かれた場所。夜になれば、遮る建物ひとつない空に、プラネタリウムさながらの星空が浮かぶ。
そんな自然いっぱいの町、花巻市幸田に、人気のノンアルコールシードルを製造・販売している施設がある。
農業を基盤とした暮らしを提供する「社会福祉法人 悠和会」だ。
ここは、認知症患者を対象としたグループホームやデイサービス、そして障がいのある方に就労支援の場を提供する法人施設。一般の福祉施設としてのサービスに加えて、高齢者と障がいのある人がともに農作業や食品加工をおこなう、農家としての側面も併せ持っている。
悠和会では、米や野菜、りんご、ぶどうなどさまざまな作物を栽培しているが、なかでも悠和会が運営するワークステージ「銀河の里」で、自家栽培のりんごを加工してつくられた、
「自家農園産りんご果汁 100%のノンアルコールシードル」は、県内外でも知名度の高い商品だ。
「暮らしのある社会福祉」をコンセプトに、農業と社会福祉サービスを両立する悠和会、こうしたコンセプトの施設を創設するに至った経緯や、農作物への思いについて、スタッフの宮澤さんにお話を伺った。

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社会福祉にとどまらない事業に挑戦したい。

悠和会が立ち上げられたのは2000年。
当時首都圏で福祉の仕事をしていた理事長の宮澤夫妻が、花巻に移住してから8年後のことだ。
宮澤さんの移住当時、社会福祉はちょうど転換期を迎えており、高齢者や障がい者を巡る衣食住の環境は決して悪くなかった。しかしそうした環境で働くうち、直感的に「暮らしがない」と感じ、「地方ならば、自分の思う『暮らしのある福祉』が実現できるかもしれない」と考えていたという。
花巻に移住してから、農業の傍らで障がい者や高齢者、不登校の子どもたちとともに農業体験や交流活動、文化イベントの企画など、さまざまな活動をはじめた宮澤さん。
こうした活動を通して「福祉事業にとどまらない、地域創生や農福連携といった社会課題にもつながる活動を包括した事業」の構想を練っていたそうだ。そうして2001年、認知症の高齢者を対象としたサービスを中心に、事業が始まったのだった。
「暮らしのなかで、みんなで生きていくことをコンセプトにしています。みんなで農業をやって、高齢者にも手伝ってもらい、障害をもつ若い人たちにどんどん仕事をしてもらう、そんな仕組みを作っていけたらと思っています」と語る宮澤さん。
現在は就労支援事業も並行しているため、施設にはさまざまな年代が出入りしている。
施設利用者の方が活躍出来る場を作り続ける悠和会は、福祉施設の新しい形に気づかせてくれる場所ではないだろうか。

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社会福祉法人悠和会|宮澤 健 様,門屋 左京 様

小規模ならではの繊細さが強み。

そんな悠和会が、人気のシードルをつくることになったのは2013年のこと。
高齢でりんご栽培ができなくなった農家から畑を引き継ぎ、生果だけでなく加工商品の開発を考えた際、シードルに目をつけたという。
育てている品種は、ふじ、ジョナゴールド、紅玉の3種類。炭酸を上手に入れられる技術を習得したスタッフで果汁100%のシードルを開発、販売したところ、一番人気の紅玉が雑誌「ブルータス」に取り上げられ、日本一の「お取り寄せ」シードル部門で、なんと準グランプリを受賞。一躍人気の商品となった。
「品種ごとに、色や香り、味の違いがあることが特長です。しっかり品種ごとの味わいを引き出せる、これは小規模ならではで、大規模な機械で生産する大企業では出せない違い。そういうふうにワインを造れるのが、日本人の感性なのかなと思います」と宮澤さん。
また、おなじく悠和会の畑では醸造用のぶどう栽培も。
2018年に開設されたワイナリーで、今後はワインづくりにも挑戦したいという。
りんごやぶどうの栽培において、やはりしっかり育てていくための作業には気が抜けないそうだ。
「草刈りは年に5回もあるし、芽かきや摘果など、やることはたくさんあります。そして、ちゃんとそうしたお世話をしていても、つぎは土の状態や天候の問題がふりかかってくる。最終的には天に祈るしかないのですが、そういうところが面白いと思っています」と宮澤さん。
「ぜんぶマニュアルでコントロールしようなんてことは傲慢ですから。
自然や天気に祈りながら、楽しんで育てています」

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福祉活動も農業も、もっと広げていきたい。

今後の展望について「施設利用者や職員、一般の方も一緒になって、農業のある暮らしと、その暮らしの近くにある福祉施設として活動していきたい」と宮澤さんは語る。
「花巻クラフトワイン・シードル特区」を活用したぶどう畑の拡大、ゆくゆくはレストランの運営にも挑戦してみたいのだとか。自然の景色を眺めながらの食事は、とてもおいしく楽しめそうだ。
悠和会で販売されているシードルは、「Farm to Table Ginganosato」というブランド名で、各種オンライン通販サイトにて販売中。上質な飲み物を味わってみたいとき、もしくは誰かの贈り物に、ぜひ一度お試しあれ。