はじめからおわりまで、すべて手づくりの濃厚チーズ「早池峰醍醐」

osako01

地域特産物マイスター、伊藤さんの絶品チーズ。

みなさんは、ワインのお供というと何を想像するだろうか。
ピクルス、答えはそれぞれの好みによってさまざまだが、「王道はやっぱりチーズ」という人も少なくないはずだ。
今回は、そんな人におすすめ、花巻自慢の手づくりチーズをご紹介したい。
ここ花巻の地で約40年間チーズをつくり続けている「大迫チーズ生産組合」だ。
組長を務めるのは、伊藤行雄さん。「花巻のワインにマッチして、子どもにもおいしく食べてもらえるチーズをつくりたい」という想いで、モッツァレラ・スカモルツァスモーク・ストリングスの3種類のチーズを製造・販売している。
この3種類と、寒さの厳しい冬にだけ造られる「カチョカバロ」という熟成チーズは、地域に根ざした食品という意味を込めて「早池峰醍醐(はやちねだいご)」と名付けられた。口いっぱいに広がる濃厚でまろやかな甘さは、岩手県内外でも一級品の味として、専門家からも高い評価を受けている。
また平成27年には、岩手県では7人目、花巻市では初となる「地域特産物マイスター」に認定され、その実力を証明。
伊藤さんが自らの手でつくりあげる早池峰醍醐、生産に至るまでの経緯やこだわりについてお話を伺った。

osako03

決め手は、「直感」でした。

伊藤さんはもともと酪農業の出身だった。
例えばぶどう農家が、収穫したぶどうをジュースやワインへ加工するように、伊藤さんも、採れた牛乳でバターやヨーグルトなど、なにか他の食品に変えられないかということを考えていたのだそう。そんな時期に、チーズづくりをスタートすることになったきっかけは、元大迫町長・村田柴太氏のひと声だったという。
「村田さんは博識で、発想の豊かな人でした。彼の考えがなければ、チーズはもちろん、ワインづくりもここまで盛んではなかったかもしれません」と伊藤さん。
村田氏は、当時着工した施設の記念公演に、東京農大からチーズ専門の先生を呼び、何十種類ものチーズを試食させたうえで、伊藤さん含め参加者にチーズ作りを持ちかけた。その際に村田氏が言った『ワインとチーズのマリアージュ』という言葉は、当時の人々には聞き慣れない言葉で、参加者は案の定「いやいやチーズなんて」という反応だった。
しかし伊藤さんは例外で、村田氏の話をよく聞いたうえで「村田さんの考えならば」とチーズづくりの勉強に踏み出したのだそうだ。話を素直に受けようと思った理由は特になく、これまでの経験から、いいものがつくれそうだと直感したという。「先見の明が働いたみたいです(笑)」と、伊藤さんは笑った。

osako04

大迫チーズ加工生産組合|伊藤 行雄 様

いいチーズがつくれると信じ続けた40年。

早池峰醍醐は、その製造工程のすべてを人の手でおこなっている。
1日のうち、チーズづくりにかける時間は10時間以上。さらに1日の作業は、毎朝届く牛乳を低温殺菌するために、なんと朝4時からはじまるという。技術だけでなく、つくり手の経験も仕上がりに大きく影響するというチーズづくり。計り知れない労力を持ってしても、手作業というこだわりを捨てない伊藤さんのつくるチーズが「最高級」と呼ばれない理由はない。
こうして伊藤さんがつくりあげてきた味は、ソムリエの田崎真也さんをも魅了する。
わざわざこの工房まで足を運んでくれたこともあるのだとか。また、早池峰醍醐はそのまま味わうほかにも、そばつゆにつけて、ネギや鰹節を乗せて食べるのも喜ばれるそうだ。
チーズの原料となる牛乳について、乳牛といえばホルスタインという品種が一般的だが、大迫チーズ生産組合では、ホルスタイン種とブラウンスイスという品種をブレンドした牛乳が原料になっている。
小柄で灰褐色の毛をしたブラウンスイス種の飼育数は、日本全国で見ても数百頭程度と、国内ではまだまだ珍しい。
放牧に向いている品種で、無脂乳固形分が豊富に含まれているため、濃厚な、チーズらしい仕上がりになるのが特徴だ。
しかし、その「濃厚な、チーズらしい仕上がり」へたどり着くのに、かなりの試行錯誤を重ねたという伊藤さん。
「外国に研修に行った先で『チーズを商品として売れるようになるには3年かかる』と言われました。
でも、3年どころではなかったですね。あの頃はまだチーズという食材自体が日本に浸透していなかったこともあって、納得いく味で、納得いく売上が出るようになったのは10年目くらいじゃないでしょうか」と、当時を振り返る。
伊藤さんが目指していた「熟成チーズ」は、いまとなっては人々から広く親しまれているものの、当時は独特の香りや風味がなかなか受け入れられなかったという。
チーズづくりを始めてから約40年。今、つくるチーズが「早池峰醍醐」として愛されているのは、伊藤さんの粘り強さと探求力の賜物ではないだろうか。

osako05

花巻のチーズには、花巻のワインを。

「合わせるワイン選びに困ったら、同じ地域でつくられたワインを合わせてみてほしい」と語る伊藤さん。
「食べ物は、そこで育ったもの同士がよくマッチするのだと思います。たとえば、その土地に生える草を食べて育った牛の牛乳や、その土地の水と土で育ったぶどうなど、組み合わせはいろいろです。花巻にある四季折々の地産料理を存分に楽しんでほしいです。」
大迫チーズ生産組合の早池峰醍醐は、県内3ヶ所の販売店ほか、ウェブサイトでも購入できる。
花巻に遊びに来たら、おいしい肉と野菜を。飲み物にはワインを、チーズといっしょに。
花巻の魅力を、まずおいしさから味わってみるのも、ひとつの思い出になりそうだ。